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菊割木瓜で味わう、韓国の小さな旅気分器とわたしの小さなしつらえ
vol.6

読了時間の目安:5分

器をひとつ添えるだけで、日常のひとときが穏やかに整っていきます。「今日はどんな器にしよう。」そんな小さな選択が、“食べる時間”をていねいに変えてくれる。

今回は、韓国のお土産でいただいた伝統的なお菓子「茶食タシ(다식)」を、お茶の時間にしつらえてみました。

1.きょうのひと皿 旅のお土産を分け合う午後

友人から旅のお土産にいただいたのは、桐箱に丁寧に収められた韓国のお菓子「茶食(タシ)」。

「これね、韓国ではお祝いの席で食べるお菓子なの。」

木目の淡い箱の中には、小さな円形の菓子が並び、上には薄紙が一枚。その隙間から、きな粉やごまの香りがふんわりと漂ってきます。その香りだけで、旅先の空気を少し分けてもらったような気持ちになります。ひとつひとつに花や松の文様が彫り込まれたタシは、まるで小さな押し花のよう。見ているだけで心が静かに整っていくようでした。

“せっかくなら、器もちゃんと選びたいね。”
そう言いながら、自然と棚の前で器を並べていく。友人と過ごす午後は、どこか旅先の空気が混じったような、静かな高揚感がありました。

2.どの器にする? 模様と色のバランスを楽しむ

タシはひとつが指先ほどの大きさ。取り皿ほどのプレートでは余白が広がりすぎて、どこかさみしく映ってしまう。だから今回は、タシの小ささに寄り添うような豆皿を選ぶことにしました。

テーブルに並べたのは、3つの候補。

隅入菱形 豆皿

きりっとした直線が印象的で、古典的な表情の中に静かな緊張感がある。

ヴィネット 10㎝プレート

土の表情に鉄粉が浮かび、異国の花模様がタシの雰囲気とどこか通じ合う。

菊割木瓜 豆皿

花を木瓜型にあしらった意匠で、文様ともどこか響き合う。

その中から選んだのは、「菊割木瓜 豆皿」。
花のかたちと木瓜の柔らかなフォルムが、タシの彫り文様を引き立てる。ほんの少し、韓国の気配を感じる意匠に、ふたりで「これが一番しっくりくるね」と頷き合いました。

3.器をしつらえて 色と文様でつくる旅の空気

菊割木瓜」の豆皿と「菓(このみ)」の茶杯の下には、稜花をモチーフにした「風花200プレート」を敷いて。黄色のプレートには黒の豆皿を、黒のプレートには黄色の豆皿を合わせて、お互いの器が色を映し合うようにセッティングしました。カーキのリネンをテーブルに広げると、器の色と模様が穏やかに浮かび上がります。

タシは白・黒・緑・オレンジ・黄色・キャラメル。色とりどりの菓子に彫られた文様が光を受けて、まるで小さな工芸品のよう。

個性的なタシに負けない存在感をもつ菊花模様の菊割木瓜。黄色と黒の器のコントラストが、韓国の装飾文化のような華やかさを添えてくれる。ふたりのテーブルに、旅の余韻をまとった小さな世界が広がっていくようです。

桐箱にはまだたくさんのタシが残っていて、おかわり用に「トレトゥール プレートMへそっと積み上げました。
白や黄色の明るい色、深い緑や黒の落ち着いた色。重ねられたタシはまるでカラフルな積み木のようで、眺めているだけで楽しくなります。濃藍のプレートが、黒とも緑ともつかない奥深い色合いで、テーブル全体をきりりと引き締めてくれました。

最初に菊割木瓜に盛りつけたひとつを味わったあとは、トレトゥールの上から気に入った色をひとつずつ選んでいく。器と菓子の色が交差して、本場らしい雰囲気が漂ってきました。

4.いただきます 器とおしゃべりでめぐる旅

ミュール ポット」で温かいほうじ茶を注ぐと、湯気の向こうに香ばしい香りが広がります。タシをひと口かじると、胡麻の香りとやさしい甘みがふわりとほどけていきました。

「韓国ではね、季節や祝いごとによって模様が変わるの」

そう言って、友人がひとつひとつの文様に込められた意味を教えてくれます。

花や蝶は、自然の美しさや生命力、喜びをあらわすこと。幾何学模様には、家の繁栄や物事が穏やかに続くようにと願いが込められていること。水車の文様は、豊かな暮らしや順調な流れを願う印なのだそうです。

タシのやわらかな甘みを味わいながら、その文様の物語をひとつひとつ思い浮かべる。行ったことのない国の話を聞いているだけなのに、その色や空気がすぐそばにあるような気がしてきます。

器をしつらえるだけで、ほんの少し“旅する気分”を味わえるのだと気づきました。お土産という小さな贈り物が、器とともに新しい時間を生んでくれる。今日の午後は、そんなやさしい発見に包まれたひとときでした。